
上社から下社へ神が渡った道
四方を諏訪大社四社に囲まれ、古くから神秘の湖として知られる諏訪湖。諏訪湖にはさまざまな不思議がありますが、中でも広く知られているのが、御神渡りではないでしょうか。御神渡り神事は、諏訪市の無形民俗文化財に指定されている八剱神社の特殊神事です。最も古い記録は室町時代、嘉吉3年(1443年)のものといわれ、八剱神社には、天和3年(1683年)以降、諏訪大社上社へ報告した「御神渡り帳」が現存しています。
御神渡りとは、諏訪湖が全面結氷すると南の岸から北の岸へかけて氷が割れて山脈のようにせりあがる現象のこと。御神渡りは、「バリバリバリ」「ゴゴゴ」といった轟音とともに突然現れます。御神渡りは、諏訪湖だけでなく、北海道の屈斜路湖や群馬県の榛名湖、宮城県の長沼など、県内では小さいけれども松原湖、野尻湖、木崎湖でも見ることができます。
御神渡りは、初めて結氷した日「初結氷」、諏訪湖が10割程度結氷した日「全面結氷」、諏訪湖独特の「全面結氷日」を経て現れます。「全面結氷日」は、全面結氷が24時間以上続いた日のことで、それからほぼ1週間程度で御神渡りが出現します。

では、どうやって御神渡りはできるのでしょうか。それは気温が低いと収縮し、気温が高いと膨張するという、氷の性質が大きく関係しています。全面結氷した湖の氷は厚みを増し、さらに夜間から早朝にかけて冷え込みが強まると、氷が縮んで割れます。割れ目に湖水が入り、新たに薄い氷ができ、日中気温が上がって氷が膨張すると、薄い氷が押し上げられるという仕組みです。この現象は物理的には「氷の鞍状隆起現象(くらじょうりゅうきげんしょう)」といわれ、繰り返し行われることで大きいものは1mにも2mにも達する氷壁ができます。



御神渡りの記録やそれにまつわる神事を行う八剱神社では、毎年、小寒(1月5日頃)から立春(2月4日頃)に、宮司と氏子総代らが湖面を毎日観察します。御神渡りが現れたときは、御神渡りの確認・確定・お祓いなどを行う「拝観式」が執り行われます。そして氷の割れ目の様子からその年の吉凶などを占います。けれども今年は、御神渡りが出現しない「明けの海」となりました。前回、御神渡りが現れたのは2018年のこと。2019年以降8季連続の「明けの海」は、戦国時代の記録(1507~1514年)に512年ぶりに並び、来年こそはと期待されています。
諏訪大社上社の建御名方命(男神)が下社の八坂刀売命(女神)のもとへ通った道筋と信じられてきた御神渡り。諏訪に暮らす人々にとって、御神渡りは冬期最大の関心事であり、偉大な神の御業と敬っていました。御神渡りが出ると湖畔にはその荘厳で不思議な光景を一目見ようと多くの人たちが集まります。
